トンデモさんが裁かれる日

エルンスト・ツンデルはカナダからドイツに”送還” 「極東ブログ」さんより
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/03/post_1.html

今回の事件は、別の言い方をすれば、「電波系のオジサン」を思想犯にしてしまったということだ。だから、そんなことがあっていいのか、という問題でもあるのだ。

ホロコーストは無かった」と「地球空洞説」の二刀流トンデモで名を馳せるツンデルさんが思想犯に「出世」してしまわれました。
しかしカナダもドイツも自分たちがツンデルさんを「出世」させちゃったってこと自覚してるんだろうか?
奇しくも本家と学会の「トンデモ本1999」では「トンデモ」を力で封印することの危険性がイマヌエル・ヴェリコフスキーの『衝突する宇宙』を例にとって語られている。

『衝突する宇宙』のあまりのでたらめさに憤慨した科学者たちが出版社への抗議、執筆ボイコットを決行。そのため『衝突する宇宙』は絶版になりました。
しかしその結果『衝突する宇宙』には「不当な圧力によって闇に葬られた真実の書」のような「権威」が付いてしまい、トンデモさんたちは沈静化するどころか更に燃え上がってしまったのでした。めでたしめでたし。*1

というわけで今回のカナダ、ドイツの処置はかなりヤバイんじゃなかろうか。ツンデルさんの言説がこれによって権威づけされちゃうかどうかはおいといても。
「言論、思想を弾圧するカナダ、ドイツは間違っている」→「ツンデルは弾圧された」→「間違ってるカナダ、ドイツに弾圧されたのだからツンデルは正しい」
という「敵の敵は味方」みたいなわかりやすーい「論理」があちこちで展開されそうな・・・。そうでなくても既に「私はナチスを擁護しようとかホロコーストを否定しようなんてつもりは全くありません。でもホロコーストに疑問を呈するような記事を載せただけで一つの雑誌が廃刊にされるような状況で、はたしてホロコーストは公正に検証されてきたのでしょうか?」みたいなコピペ・・・もとい言説が大量に流布されているわけですよ。しかもこういう「論理」に自分ら一般市民は超弱い、それこそトンデモ言論そのものよりも影響大。正直上の文章も自分で書いてて危うく説得されそうになっちゃいました・・・やばいやばい。
ほんと、こんな危険を冒してまでツンデルさんを思想犯に「出世」させる必要があったんでしょうか?
トンデモな思想言論が犯罪として裁かれなきゃならないくらい危険だとみなされる社会ってどんな社会なんだろう?


学力低下ゆとり教育の目的 (2004-12-28) 「憂鬱なプログラマによるオブジェクト指向日記」さんより
http://umi.no-ip.com/simple/pdone.html?id=415

(前)教育課程審議会会長の三浦朱門は、ゆとり教育について斉藤貴男ののインタビューで次のように証言している。(斉藤貴男『機会不平等』文春文庫 p.48-50)
学力低下は予測し得る不安と言うか、覚悟しながら教課審をやっとりました。いや、逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。つまり、できん者はできんままで結構。戦後五十年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。

(中略)

今まで、中以上の生徒を放置しすぎた。中以下なら”どうせ俺なんか”で済むところが、なまじ中以上は考える分だけキレてしまう。昨今の十七歳問題は、そういうことも原因なんです。

平均学力が高いのは、遅れてる国が近代国家に追いつけ追い越せと国民の尻を叩いた結果ですよ。国際比較をすれば、アメリカやヨーロッパの点数は低いけど、すごいリーダーも出てくる。日本もそういう先進国型になっていかなければいけません。それが”ゆとり教育”の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ」

99人の非才、無才と1人のエリートですか…この二者の意見が対立したとして、民主主義の国だと99人の非才、無才の意見が通っちゃうんですけど大丈夫なんでしょうか?*2
考えてみれば自分達がトンデモさんの言説をトンデモとして楽しんでいられるのも他の一般国民の知性、リテラシーの平均がある水準をクリアしてるっていう信頼感があるからこそだよねえ。でも三浦朱門さんが目指してるような社会が実現したらどうだろ?今までだったら100人中5、6人くらいしかハマらなかったトンデモ思想に1人のエリートを除いた99人がハマっちゃう可能性だってあるわけだ、怖えー。なにしろトンデモって実直な非才、無才が一番ハマりやすいもんね。
つまり三浦さんが目指すような社会が実現したときこそ俄然トンデモは犯罪的危険性を帯びるわけですな。
カナダ、ドイツがそんな社会なのかどうかは知らないが少なくとも為政者は国民の知性、リテラシーとか信頼してないんだろうね。だから危険を冒してでもツンデルさんを思想犯に「出世」させちゃったんだろう*3。それにくらべて日本ではトンデモさんがTV出演して言いたいこといっても、トンデモさんが本をだしますよ、なんてのが新聞記事になっても一切お咎めなし。ああ日本人でよかった。
しかし日本も「ゆとり教育」とかって三浦朱門さんの言うような社会に向って進んでるとしたら笑ってらんないかも・・・そうか、最近「憲法改正して思想、言論の自由に制限を」とか「人権擁護法案」とかきな臭い動きが活発化してるけど、これは来るべき「三浦朱門式エリート社会」に備えて先手を打ってるわけか、なるほど。

*1:トンデモ本1999』からの引用ではなく、てきとーな要約です。

*2:まあこれをもって「民主主義の危機だ」とか主張しようというわけではないです。つーか馬鹿100:エリート1みたいな状態で民主主義やってたらそれこそ危機的状況になりそうな・・・

*3:このへんって先のNHK問題の安倍氏、中川氏の動きに近いものを感じるなあ